「しかし、久瀬は一体何をしようとしているんだ?」
應援團を抵抗勢力呼ばわりしたり、真の改革を遂げてみせるなどと言ったりする久瀬の狙いは一体何なのだろうと、俺は應援團のみんなに訊ねた。
「ああ。あいつは應援團のバンカラ服を廃止しようとしているんだ」
「なんだって!?」
俺は潤の返事に驚きを隠せなかった。水高の應援團のシンボルとも言えるバンカラ服を廃止するだなんてそんな暴挙が許されるのだろうかと。
「『昨年に全生徒の制服が一新された中、應援團のバンカラ服は21世紀を迎えようとする今日においては時代遅れの遺物に過ぎない。故に廃止しなければならない』だとよ! まったく、久瀬のヤロー、應援團をナメやがって!!」
潤は久瀬の持論を口に出しながら、拳をテーブルに打ち付け怒りをあらわにした。
「バンカラ服は時代遅れ。客観的に見ればそれはある意味正論だ。実際全国的に見てもバンカラ服は廃止の方向に向かっている。岩手県内でもバンカラ服の應援團は数えるくらいしか残っていないからね」
久瀬に対し怒りをぶつける潤とは対照的に、副團は至って冷静に現状を分析した。確かに転校する前自分がいた地域にもバンカラ服應援團というのは目にしなかったので、全国的に廃止に向かっているというのは紛れもない事実だろう。
「けど、全国的に廃止の方向に向かっているからとはいえ、我が校のバンカラ服を廃止しなければならないという道理はない。バンカラ服が必要か否か、それは我が校の生徒の判断に任せるしかない」
「生徒の判断?」
「ああ。今日の生徒総会でバンカラ服廃止の議案が提出される。廃止の有無に関し挙手を取り、その結果で全てが決まる」
副團の話に寄れば、全校生徒の内過半数の者が挙手すれば議案は可決され、今年度を持ってバンカラ服は廃止となるとのことだった。
「過半数が賛同すれば可決か。大丈夫なのか?」
「心配はいらないよ祐一君。47代に渡り生徒と共に信頼を築き上げてきた應援團の象徴とも言えるバンカラ服の廃止を、全生徒の過半数が賛同するとは僕には思えない」
「ああ、そうだぜ! 決戦の場は最後のテストが終わった後の体育館。必ずやバンカラ服の廃止を阻止して、久瀬の野望を打ち砕いてやるぜ!!」
約一時間後の生徒総会に向け、潤は既に臨戦態勢のようだ。俺も潤達と同様應援團のバンカラ服は守りたい。俺はこの学校に転校してまだ2日の生徒に過ぎない。けど、春菊さんや母さんが守り伝えていったものを俺の世代で途絶えさせるわけにはいかない。
そんな思いを抱きながら昼休み後のテストを受け終え、そして生徒総会が始まった……。
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第壱拾八話「白熱の生徒總會」
5時間目終了後、テスト疲れも癒されないまま、全校生徒は廊下へ並ばされ、生徒総会が開かれる体育館へ1年生から順に移動させられた。辛いテストが終わった後に催される生徒総会。通常生徒総会と言うのは、“生徒の総会”というのは名ばかりで、実際は予め決められた議案を生徒会役員がただただ暗唱して、特に生徒の意見も聞かないまま会が終わるのが常だ。
生徒に発言権がないわけではない。誰も彼もが参加したがらない、意見を言おうとしない。単にこの退屈な時間が早く通り過ぎないかと思いながら、校長先生の朝礼より退屈な生徒会役員による学芸会を、話半分に聞き流しているのだ。
学校の生徒総会というのは、とにかくそういったものだ。よく国会中継などでうたた寝している議員を真面目に聞けと批判する声がある。しかし、そういった批判をする連中に限って、学生時代の生徒総会は寝て過ごしたに違いない。我が身の過去を振り返らずに、他人の堕落に批判の声を挙げるとは、随分とまた厚顔無恥な奴等だ。
もっとも、国会でうたた寝をする議員というのも、学生時代の生徒総会でうたた寝をしていた者のなれの果てな気がするけど。
(なんだ、この熱気は……)
けど、この水高の生徒は違った。体育館に入り指定された列に並ぶまでの間一年生の顔に目をやったが、ほとんどの者が退屈そうな顔をしておらず、真面目な顔をする者、まるで祭を楽しもうかという活気に満ち溢れた顔をしている者がほとんどだった。
「なあ、何でみんな退屈そうな顔をしていないんだ?」
今自分の目の前に広がっている厳粛と熱気が入り混じった生徒総会開催前の雰囲気が意外なものに映り、その理由は何なのだと俺は自分の前に並んでいる潤に訊ねた。
「この雰囲気こそが、我らが皇女がお作りになられたものだ」
潤曰く、この雰囲気こそが佐祐理さんが生徒会長時代に成し遂げた最大の改革、劇場型生徒総会であるとのことだった。劇場型と言うと、ナチス政治のように扇情的なマイナスイメージを与えがちである。
では真面目で厳粛な生徒総会こそが正しく清潔な総会だと言うのか? 答え否だ。何故ならば、その厳粛な生徒総会こそが、大多数の生徒が退屈を感じる従来の生徒総会だからだ。
「本人に直接聞いたわけじゃないから詳しくは分からないけど、恐らく厳しい規則を押し付けることじゃなく、生徒一人一人が学校の運営に携わっているという自覚と責任感を持たせることで、生徒の規律を正そうとしたんじゃないかな?」
成程。所謂太陽路線というものか。冷たく厳しい北風で旅人の服を脱がせようとするのではなく、温かい太陽の心地良さで服を脱がせるという政策か。
「ではこれより、水瀬高等学校平成10年度後期生徒総会を開始致します」
全校生徒が体育館に並び終わり、生徒会役員の号令と共に生徒総会は開催された。
「まず始めに議長を選出したいと思います。誰か立候補者は……」
『皇女! 皇女! 皇女!!』
生徒会役員が議長の立候補者を募ろうとした刹那、体育館全体から皇女と叫ぶ熱狂的な歓声が聞こえて来た。恐らくこの声は佐祐理さんに議長を務めてもらいたいという全校生徒の総意なのだろう。
「う〜〜、あの〜〜、かいちょー、どうすれば……」
体育館から聞こえる声はみな佐祐理さんを推薦する声ばかりで、自ら立候補しようとする声は皆無だった。立場上立候補者選出と言ったからには立候補者を待たねばならない。全校生徒の総意にどう答えればよいか分からず、司会の生徒会役員は久瀬に助けを乞うた。
「構わないさ、書記君。全校生徒の推薦に基いて、倉田さんに議長を任せよう」
「はぁ、分かりました。では、多数の推薦により議長は皇女……じゃなくて、倉田佐祐理さんに決定致しました」
『我らが皇女皇女のご復活だーー!! ワアア〜〜!!」
佐祐理さんが正式に議長に選任され壇上に上がるまでの間、全校生徒は佐祐理さんが再び生徒総会の舞台に返り咲くことを、歓喜の声を持って迎えた。
「どうも。みなさんのご声援にお答えしまして、倉田佐祐理が議長を務めさせていただくことになりました。何分議長を務めるのは初めてのことですが、みなさんのご期待に応えられるよう精一杯頑張ります。どうか、よろしくお願い致します」
『ジーク・カイザーリン! ジーク・カイザーリン! ジーク・カイザーリン・サユリーー!! ワアア〜〜!!』
そして佐祐理さんが壇上に上がり一礼すると、全校生徒の歓喜はクライマックスを迎えた! 誰も彼もが「ジーク・カイザーリン! ジーク・カイザーリン! ジーク・カイザーリン・サユリーー!!」と熱狂的に叫び、佐祐理さんに最大限の賛辞を送ったのだった。
そして佐祐理さんが壇上に上がったことにより、ついに生徒総会は序章を奏で終え、本章へと移っていくのだった。
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「では、最初の議題、『校内における携帯電話の所持に関する校則の改正案』について議論していただきたいと思います。では久瀬さん、議題に関してのご説明をお願いします」
「お任せを、マイクイーン!」
佐祐理さんに指名され、久瀬が意気揚々とステージの中央の下に置かれた議論台へと登り、議題の説明を始めた。
「数年前に世に出された携帯電話の発展はめざましく、一昔前ではアタッシュケースほどの大きさを誇っていたが、今では小型化が進み手軽に携帯できるサイズになった。
これにより昨年の夏休み辺りから徐々に我が水高の生徒の中にも普及し、学校にまで携帯電話を持ってくる者が増えた。現時点の校則では、校内における携帯電話の所持に関する規則が定められておらず、原則持込が禁止とされている。
しかし、校則で禁じられていないことには持ち込んだことを罰することはできない。だから校則に携帯電話の所持を禁する条項を設けるべきだという意見が職員側より出された。
これに対し生徒側からは、携帯電話の普及は時代の流れであり、所持を禁止することは時代の流れに反する暴挙だ。寧ろ時代に合わせ携帯電話の所持を校則により認めるべきだとの声が挙がった。
生徒会は決して少なくないこの生徒等の要望に応え、職員側との数度による話し合いの結果、妥協の末に携帯電話の所持を認めさせる条項を校則に盛り込むことで合意した。冬休み前に渡したプリントに、詳しい改正案を記載しておいた。今日はその条項に対し全校生徒の意見を聞きたい」
生徒総会の議題なんてのは話半分にしか読まず意見の1つも上がらないことが普通だ。しかし、久瀬が意見を募った後、体育館の生徒が並んだ中央付近に置かれた意見台に数人の生徒が並び出した。確かに潤の言うとおり、この学校の生徒の生徒総会に対する関心は高そうだ。
「では、始めの人。学年とお名前を述べてからご意見を申し上げてください」
「はい。1年4組の吉崎峰と言います。携帯電話の所持が校則で認められるようになることを大変嬉しく思います。ですが、この素案にはいくつか疑問があります。
まずは校舎内における携帯電話の使用禁止。所持は認められているが使用は許されないとは意味が分かりません。そして条項に違反した者の携帯は学校側が没収とはあまりに制裁が酷すぎます。
何故このように厳しい条項を作ったのか、生徒会長のお考えをお聞かせください!」
「よろしい、説明してあげよう。まずは校舎内での使用禁止は、至極当然と言えば当然の話だ。そもそも学校とは勉学に励む場であり、携帯で談話する場ではない。第一、携帯が普及する前、学校に設置された電話で私的な会話に興ずることが許されていたと思うのかね?」
「そ、それは……」
「携帯する電話とはいえ、校則上の扱いは普通の電話と代わりがない。第一、携帯所持者という特権階級に優遇措置を与えることは、その他持っていない者に対しての差別に繋がる。生徒会としても一部の生徒を優遇する校則を制定する気は毛頭ない」
「それならば、何故所持を認める校則を制定しようとしているんですか!」
「簡単な話だ。あくまで校内での使用が禁止なだけであって、放課後の使用まで禁じているわけではない。君等が放課後学校から家に帰るまでの間携帯を使用するのは自由だ。ただ、所持まで禁止してしまったら放課後に使用することすら叶わない。だから今生徒総会において単純所持のみを認める校則を制定しようとしたのだよ」
成程。あくまで所持することのみ認めた校則ということか。確かに久瀬の言うことにも一理ある。授業中に携帯で電話していたなら起こられるのは当然だし、休み時間に携帯に内蔵されているゲームで遊ぶのも許される行為ではないだろう。仮に携帯ゲームで遊ぶことが認められたら、校舎内で漫画本を読んだりゲームボーイで遊ぶことも許される行為ということになるだろうし。
それじゃあげんしけんはどうなるかと聞かれれば、あれは研究資料という名目で、ギリギリの線で認められているのだろう。グレーゾーンには変わりないけど。
しかし、久瀬の掲げた校則はいささか厳しい気もする。せめて通常の電話使用に限り、休み時間中は許可を出してもいい気がするのだが。まあ、通話とその他の使用の線引きは難しいというのも分からないでもないけど。
「また、携帯の没収とはあくまで一時的な制裁であり、没収した後違反した生徒に反省の色が認められればきちんと返品する決まりだ。それは授業中にこっそり読んでいた漫画を没収するのと同じだ」
「……分かりました。色々と言いたいことはありますが、この校則が通らなければ所持すら許されないというのは百も承知です。今は煮え湯を飲む思いで、この校則の制定を支持します……」
吉崎という生徒は、生徒会が制定した校則に最後まで納得がいってなかったようだが、その校則が現状より一歩進んだものであることは認知しているようで、渋々校則の制定を支持すると言い残し、意見台を後にしたのだった。
「他に意見はありませんね。では採決を取ります。『校内における携帯電話の所持に関する校則の改正案』に賛成の方は挙手願います」
一通りの意見を聞き終えた後、佐祐理さんは校則の是非を全校生徒に委ねた。
「賛成多数。賛成が過半数を超えた為、この議題は可決されました」
結果は見るまでもなく賛成多数で可決だった。恐らくほとんどの生徒が制約の多い校則には納得していないことだろう。しかし、単純所持が認められるだけでもまだマシだと、渋々賛成に回ったのだろう。
こうして『校内における携帯電話の所持に関する校則の改正案』は可決され、来年度から携帯の所持が認められることとなったのだった。
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「では、本日最後の議題、『應援團のバンカラ制服の廃止』について、久瀬さん、ご説明ください」
生徒総会は白熱した議論を重ね、ついに最後で最大の議題である「應援團のバンカラ制服の廃止」に移っていった。
「健全なる水高生徒の諸君。今年度から新デザインの制服が採用されたことは記憶に新しいだろう。僕はこの制服のデザインを一新したのは時代に合わせ変革していこうという素晴らしい改革だと思っている。
しかし、この改革に抵抗を見せる連中がいる。そう、應援團だ! 彼等はこの新しき時代の流れに反し、全身がボロボロな汚らわしい制服を纏い、神聖なる校舎を跳梁跋扈している。
この悪しき抵抗勢力たる應援團がいる限り、この水高の完全なる改革は成し遂げられない! だから僕は今生徒総会において、應援團のバンカラ制服の廃止を提言したい!
時代遅れの思想集団を排し、完全なる改革を成し遂げる為、僕の提案に賛同していただきたい!!」
自己満足的に提出された久瀬の提案に吐き気を覚える中、應援團を代表するかのように、團長が意見台に登った。
「ま、結果は見るまでもねぇが、敢えて言わせてもらうぜ、久瀬ぇ! 應援團が時代遅れだってぇ!? 何寝言言ってやがる! いいか、我が校の應援團はなぁ、10年前の伊吹先生に始まって現役の美坂に至るまで、女の應援團員が何人もいるんだよ! 4年前には相楽さんっていう女の團長もいた!
大方の学校で應援團と言えば男が中心の中、女の団員がいるってだけでも十分革新的だと俺は思うんだがよぉ、カイチョウさん」
「ふっ、確かにその点のみに関しては一定の評価をしよう。しかし、革新的な部分がある故に、旧態依然としたバンカラ制服は余計に目立つのだよ。
まあいい、君の言うとおり結果は見るまでもない。生徒達の総意によりバンカラ制服が廃止されるのを楽しみにしているよ」
「では採決に移ります。『應援團のバンカラ制服の廃止』に賛成の方は挙手を願います」
その後意見を言う者はなく、ついに採決が始まった。ここでもし賛成が過半数を超えれば、来年度から應援團のバンカラ服が廃止される。それが正しいかどうかは分からない。ただ、多数が望んだことを実現するのが民主主義の鉄則だから、例え個人的には遺憾だとしても採決が下されれば素直に従うほか道はない。
「反対多数。賛成が過半数に満たなかった為、この議案は否決されました」
しかし、それは杞憂というものだった。團長が言ったとおり結果は見るまでもなく“否決”され、バンカラ制服は廃止を免れた。
「そ、そんなバカな……」
そしてこの結果に一番驚きを隠せなかったのが、議案を提出した久瀬本人だった。自身の出した議案に絶対的な自信を抱いており、結果を見るまでもなく“可決”されると思い込んでいただろうから、そのショックの大きさは想像に難くない。
「ハッハー! 見たか久瀬ぇ!! 俺様が言ったとおり結果は見るまでもなくなかったろうが! みんな分かってんだよ、バンカラ服を纏っているからこそ水高の應援團だっつうことをよ!」
久瀬が議案の否決の狼狽している中、その傷口を広げるかのように團長が意見台に登り、高らかに勝利宣言を掲げた。
「何故だ、何故みんな理解できない! 應援團のバンカラ制服を廃止しない限り真の改革はあり得ないというのに!! みんな、昨年度の倉田さんの制服デザインの変更には賛成したじゃないか!
そうだ! これは陰謀だ! 應援團が採択を否決に回すよう全校生徒を脅していたに違いない!! だからこの採決は無効だ!!」
「!? て、テメェ! 一体何の証拠があってそんな暴言を吐きやがる!」
「証拠? ははっ、それは君たちがこうして今もバンカラ服を着ていることが何よりの証拠じゃないか! あのどんな抵抗勢力にも決して屈せず己の理念を貫き通す気高き雪の女王の倉田さんが、バンカラ制服という聖域を残すはずがない。
きっと君らの先代の應援團もバンカラ制服だけは残すように生徒達を脅迫してたんだろ!?」
「俺らだけでもなく先代にも汚名を着せるとは……もう許せねぇ久瀬ぇ! この場で俺がぶち殺してやるぜ!!」
あまりに突拍子のない疑惑を突きつけられたことに、とうとう團長は堪忍袋の尾が切れ、怒り心頭に久瀬の元へと向かっていった。
「まずいぞ北川! あの勢いだと本当に久瀬を殺しかねないぞ!」
「ああ! 流石のオレも久瀬の言いがかりにハラワタが煮え返りそうになっているが、今久瀬に殴りかかりでもしたら、それこそ奴の思うツボだ!」
確かに、ここで下手に團長が殴りかかりでもしたら、應援團は危険な存在だというイメージを与えてしまう。恐らく久瀬はそれが狙いなのだろう。久瀬本人だって應援團が本当に生徒を脅したなどとはこれっぽっちも思っていないだろう。だからこそ、罵詈雑言をかけ自らに手を出させることにより否決された議題を強引にひっくり返そうとしたのだろう。
「團長、落ち着けって!」
「とめんな、斉藤に北川! 久瀬のヤローは俺ら應援團に言いがかりをつけてメンツを潰そうとしたんだ! 奴だけはこの手でシメなきゃ気がおさまれねぇんだよ!!」
「うぶあっ!」
「ぐあっ!」
斉藤と潤は必死に團長を抑えようとするが、その2人を團長はまるで紙くずのように吹き飛ばし、一騎当千の勢いで久瀬の下へ進撃していった。
「宮沢さん、拳を降ろして下さい! 全校生徒達はあなたたち應援團を支持したも同然なんです。ここで久瀬さんに暴力を振るったら生徒達の思いを無駄にしてしまいます!」
「とめないでください倉田センパイ! 俺がこの世で一番許せねぇ行為は、自分の仲間や先輩、親友を傷付けたり侮辱したりすることだ! 奴はその俺の逆鱗に触れた! だからここで奴をシメなきゃ俺のプライドが許さねぇんだよ!!」
「ハハハ! それ見ろ! ほんのちょっと軽いジョークを吹っかけただけなのに、本気になって怒りだし暴力行為に及ぼうとする! 全校生徒の諸君! これが應援團の本質なのだよ。暴力で人を脅迫し支配しようとする人でなし! バンカラ服を廃止するくらいじゃ生温い、應援團そのものを排除しなくてはならない存在だということをこれで愚民な君らにも理解できただろう!
さあ、僕を殴りたいなら思いっきり殴りたまえ! そうすることで僕の願いが成就できるなら、いくらでも殴られてやるよ!」
「ああ! お望み通り殴ってやるぜ! 殴って殴って殴り殺してやるぜ、久瀬ぇ〜〜!!」
佐祐理さんの必死の説得にも関わらず、團長は己の信念に従い、久瀬の元へと向かっていった。
『いいぞーー!! そんなクズ生徒会長殺っちまえ、團長〜〜!!』
『民主政治を冒涜する独裁生徒会長をSATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ! SATSUGAIせよ〜〜!!』
そして一部の生徒は團長を非難するどころか、声を挙げて称賛し始めた。みんな、久瀬の暴挙に辟易し、殴りかかりたいという團長の気持ちに一定の理解を示したのだろう。
しかし、例え生徒の指示があろうともここで久瀬を殴りつけていい道理はない。議論の場においては例え相手が吐き気を覚えるような下衆な暴言を吐いたとしても、その挑発に乗って拳をたててはならない。言葉には言葉で対処しなければ、議会は成立しなくなるからだ。
「往生せいやーー! 久瀬ぇ〜〜!!」
そして團長は一部の生徒の熱狂的な支持を受けたまま、久瀬に勢いよく殴りかかっていったのだった……。
…第壱拾八話完
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※後書き
| 今回で生徒総会終わらすつもりが、なんだかんだで次回へ続きます。大まかな展開は「Kanon傳」と変わりませんが、生徒総会の部分がちょっと長くなってますね。
あと、全体的に大人しくなりましたね。「Kanon傳」ですと、久瀬は軍国主義がどうのと左翼的発言してましたけど、そういったイデオロギー色は大分薄めました。まあ、薄めたとはいえ進歩主義者には変わりありませんが。
さて次回は、久瀬に殴りかかった和人がどうなるのか? 楽しみにしていてください。 |
壱拾九話へ
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